Blood Tear
「…貴女なら、シェノーラ様貴女なら、私の気持ちに気づいてくれると、この苦しみから救ってくれると、そう思っていましたのに、なのに、なのに貴女は……」
その手を取る所か突き放し、彼女を更に闇のどん底へと導いた。
救いを求める声に気づきもせず、彼女は幸せだと思い込み勘違いしていた。
心は悲鳴をあげていたというのにそれすらも気づいてやれず、何もしてやれなかったなんて、自分は何て酷い事をしてしまったのだろう。
「…なんて愚かで醜い娘…こんな娘産まなければ良かった……それが両親の口癖でした…… しかし、13年前のあの日、私はそんな日々から解放された。私に手をあげる御父様も、声を荒げる御母様も、知らぬふりを続ける従者達も皆、皆死んでいって、私はやっと自由の身になる事ができたのです……」
親指の爪を噛む彼女は悲しそうな瞳をしている筈なのに、どこか嬉しそうにみえる。
暗い瞳は活き活きとし、口元は緩み笑っていた。
「何時も偉そうに私を怒鳴りつけ殴っている癖に、あんなにも簡単に息絶えるだなんて、人間ってなんてか弱く儚い存在なのでしょうね。皆死にたくないから我先に逃げようと必死で、誰がどうなろうと見向きもしない。命乞いなんかしても意味がないのに泣きながら懇願したりして……フフッ…どうせ皆死ぬのだから同じ事なのに……フフフッ……」
何故笑っていられるのだろう。
目の前で家族を失ったと言うのに、悲しい瞳でなく明るい瞳で、涙を流さず笑顔を見せる。
「…ティム…貴女、もしかして……」
ヴィネッド家を襲った犯人は手がかりがなく未だ捕まっていない。
一族が命を落とす中、無事助かった彼女ティムリィ。
家族の無惨な姿を目にしながらも、笑っていられるのが不思議で…
疑問を抱いたシェイラは眉を潜め、ふと頭を過ぎる言葉を呑み込みティムリィを見つめた。
「もしかして、私が殺したんじゃないかって?」
シェイラの呑み込んだ言葉を口にする彼女は鋭く目を細めて見せた。