Blood Tear
人影のない山道を、一台の馬車が急ぎ足で駆け降りる。
その慌ただしさに木々で羽を休ませる小鳥達は羽ばたいて行く。
「……良ろしかったのですか……?」
馬車の中、手綱を握る侍女が静かに言う。
すると物思いに窓の外を眺めていたシェノーラは首を傾げた。
「その……ジーク様を、置いていかれて……」
「あら、そう言えば彼、居ないわね」
初めからわかっていて馬車を走らせたのに、知らなかったと言う彼女の言葉に不信感を抱いていると…
「彼を縛りたくないの……彼の人生ですもの、彼のやりたい様に生きなくては……」
意味ありげな言葉に眉を潜めながら彼女へと目を向けると、優しい瞳をした彼女と目が合う。
「貴女も、自由になっていいのよ。私は貴女達の幸せを願っているのだから……」
「私は……」
穏やかな声で言う彼女に何か言おうと口を開くが、澄んだ茶の瞳と目が合い言葉を止めてしまう。
手綱を握りしめる彼女の後ろ姿を見つめるシェノーラは広い座席に横たわる。
悲しい色の瞳を閉じ、カタカタと揺れる馬車の音に耳 を傾けた。
ジークの無事を祈りながら…