風に恋して:番外編
ヒメナがカリストの家から帰ってきた日のすぐ後、マリナは城に呼ばれた。上機嫌の父の隣で、唇を噛み締めて必死に涙を堪えるのはとてもつらかった。唇よりも、心が痛くて……

客室へと案内されたら、オビディオは優しく微笑んでマリナを迎えてくれて、それが更につらくて、我慢していた涙が溢れてしまった。

「マリナ、泣いてはいけない。すぐにアダンが来る」
「でもっ!」

オビディオはマリナを抱きしめてくれた。彼の逞しい胸に顔を埋めて思う。この場所は、ヒメナのものだったはずなのに、と。

「ごめんなさい!私が、もっとお父様のことに気をつけているべきでした」

カリストが姉を気に入っていることは誰が見ても明らかだったのだ。そして、父がそれを利用しようとしていたことも、マリナは知っていた。

気をつけていたつもりだった。ヒメナとオビディオが愛し合っているのは一番よくわかっていたと思う。だから、2人を引き離して欲しくなくていろいろと理由をつけてはヒメナと一緒にいたのに。

「お前は悪くないよ、マリナ。俺がアダンから目を離してしまったのがいけなかったんだ」
「違うんです!私、お姉様は後から来るからって……そんな嘘も見抜けなくてっ」

あの日、マリナは母方の祖父母の家に行った。病床の祖父の容態が急変したと速達で知らせが届いて、家族全員で行くはずだった。けれど、ヒメナはちょうど友人とオペラ鑑賞に出かけていて、父が迎えに行くから先に行っているよう言われた。

事情が事情であったから、母と急いで出かけてしまった。それが、間違いだったのだ。こんなチャンスを父が逃すはずない。

祖父が良くない状態にあったのは本当のことだったけれど、ヒメナと父が姿を現すことはなかった。

夜、母と自宅に戻ったときには2人は家にいなくて、日付が変わってしばらくしてから帰ってきたのは父だけ。

すべてを悟るにはそれだけで十分だった。
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