風に恋して:番外編
「なんだ?」

オビディオがマリナの頭を撫でる。その手つきにはいつもの優しさが戻ってきていて、マリナを安心させた。

「しばらく2人で過ごしたい……」
「……」

マリナが口にした願いに、オビディオは黙り込む。

それは、オビディオとの夜を拒む言葉。

婚約の儀を済ませてから、2人が肌を重ねたことはなかった。オビディオもマリナの気持ちを汲んでくれてそうしてくれているのだと知っていた。

結婚式まで済ませた今、それが本来なら通らないわがままであることも。

もうすぐ王位を継承するオビディオに世継ぎができないことで、風当たりが強くなることがあるかもしれないし、マリナ自身も大臣たちや、特に父から小言を言われるであろうことは容易に想像できた。

でも、マリナは少しだけでもいいから時間が欲しかったのだ。覚悟を決めるだけの時間が。

そしてオビディオにも、ヒメナとの夢を鮮明に抱えたままマリナとの夜を過ごすようなつらい思いはして欲しくなかったから。

いや、きっと色褪せることはないのだろう。だが少なくとも、時間が経てば今よりも心穏やかにそれを思い出せると思った。

オビディオがマリナを裏切ったと強く思っている今は、無理矢理笑って欲しくない。その気持ちがある以上、彼の選択も1つしかないとマリナは確信している。

「……わかった」
「ありがとう、ございます」

マリナはホッと息を吐いた。このときすでに、嵐が育ち始めていたことも知らずに――
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