風に恋して:番外編
それから、エンツォも診察を手伝って夕方にはすべての患者さんを診ることができた。

診療所から続く部屋、小さなキッチンでリアが紅茶を淹れてくれる。それが、いつもエンツォがリアの様子を見にくるときの決まりのようになっていて。

「エンツォ、いつもありがとう」

テーブルにカップを置いて、リアがエンツォに微笑む。向かい側に座ったリアは少し疲れているようだ。

「どういたしまして。疲れに効く薬草、入れようか?」
「うん」

エンツォがそう言うと、リアは素直にそれを受け入れてカップをエンツォに差し出した。

少しだけ、心が痛むのは……エンツォが彼女に母の面影を重ねてしまうせいなのか。

でも……

(なぜ……?)

この診療所に、リアを連れてきてからずっとある違和感。

リアは、エンツォに恋をしていて、いつだってエンツォに笑顔を向けてくれるのに。疑うことなく、カップを差し出して「ありがとう」と微笑んでくれるのに。

包み紙の薬草をリアの紅茶に浮かべたら、その表面が揺れた。

エンツォの、心のように。
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