風に恋して:番外編
小さく「おやすみなさい」と言ったリアはすぐに眠りに落ちた。深い、深い眠りに。

エンツォはしばらくリアの髪を梳いていた。

リアの記憶は、最初にリアを城から連れ出すときに荒くではあったけれどほとんどを封じた。

軸である“エンツォが好き”ということだけしっかりインプットすれば、何か外部からの刺激がない限り本物の記憶が顔を出すことはない。

この診療所では、少しずつそこに“偽物”をかぶせているところだ。新しい記憶から、古い記憶へ……遡るように施してきた呪文。

新しい記憶は、やはり鮮明だから……早めに呪文を施しておくのがいいのだ。

だが、それももうすぐ終わる。

「君が、俺に笑わなくなったのは……気づいているから?」

エンツォはフッと息を吐き出して、リアの額に手を当てた。

幼い頃のリアの記憶に意識を集中させる。

そこでは、幼いリアがレオにマーレの神話――雨の女神の物語――の続きを嬉しそうに話しているところだった。

『レオも風が使えるから好きな人に想いを届けられるね』

呪文を施し終えて、エンツォはリアの頬をそっと撫でた。

「俺の、風は…………」

母親を壊したオビディオと、その犠牲の上に生きるレオ。そんな王子様――レオ――と恋に落ちたリア。彼女に、罪はないけれど。

「破壊しか……運べないよ」
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