風に恋して:番外編
エンツォの違和感は消えることがないまま、その日はやってきた。

「お墓参り?」
「うん。明日、お父さんとお母さんの命日だから」

少しだけ、紅茶のカップを持つ手が震えた。それは、エンツォにまだ少しでも良心というものが残っているからなのだろうか。

「そっか。俺は、明日は薬草を買ってくれるって人に会う約束があるから……」
「大丈夫だよ。1人で行ける」

リアはエンツォに向かって笑った。

(やっぱり……)

リアの笑顔は、城にいたときとは違う。

本当は……随分前にリアの記憶操作は終わっていたけれど、リアの“笑顔”が見たくてこの生活を続けていた。

だが、これ以上引き伸ばしてもエンツォの求めるそれは与えられないとも思う。それに、命日ならきっとレオもリアの両親の墓へ来るだろう。リアを、連れ戻しに。

「じゃあ、気をつけてね?明日は……風が強いと思うよ」
「うん」

エンツォは立ち上がって、玄関へと向かう。

「エンツォも、気をつけて行って来てね」
「わかってる」

リアと紅茶を飲むのも、彼女の診療所を手伝うのも、今日が最後だ。

こうして……見送られるのも。

「おやすみ、リア」
「おやすみなさい」

リアの最後の笑顔も、やっぱり本物ではなかった――
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