風に恋して:番外編
「イヴァンさん」

庭から城へ入ったところで、廊下を歩いてきたエレナに声を掛けられた。

「あれ、今日はどうしたの?ディノは夕方にならないと戻らないよ」

レオとセストが重傷を負ったときに彼らのトラッタメントの手伝いをしてくれたディノの妹、エレナはときどきヴィエント城に遊びに来るようになった。

ディノへの差し入れを持ってきたり、リアに呼ばれてお茶をしに来たり……

まぁ、それは口実のようなのだけれど。

「あ、えっと……今日は、少し気になる症状が流行っていてその報告に」

エレナは養成学校を主席で卒業し、ヴィエント王国にある診療所で研修をしている。

レオやセストにトラッタメントを施したときは研修を始めたばかりで、イヴァンは少し不安もあったのだけれど、研修生ならばクラドールの監督下でトラッタメントを施すことを許されている。

重傷だったのが国王であるレオとその側近であるセストだったこと、リアの状態も思わしくなくてまだ国民に知らせていないルカのこともあった。

最初は城下町のクラドールを呼ぼうと思っていたのだが、彼自身がそういった城内の混乱を黙っていても、王家専属クラドールが3人いるにも関わらず、更にクラドールを城へ呼びつけたということがすでに“大事”だと認識されてしまう。

それで、ディノの身内であるエレナに白羽の矢が立った。連絡も個人的に行えるし、腕も申し分ない。

研修も順調で成績も優秀らしい。平均的には7~8年、もっとかかる者も多いクラドールの資格取得も、エレナはストレートの6年で通るだろうとイヴァンは思っている。もしかしたら王家専属クラドールにもなれるかもしれない。
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