風に恋して:番外編
――あの後、目を覚ましたリアはやはり少し混乱していて、セストとレオはリアの覚えていること以外は話さないでおこうと決めた。リアの両親もそれでいいと言ったのだ。

だから治療中血が止まらないマルコの姿を見て力が暴走したのだと、そしてマルコは助からなかったと教えた。

ただ、本能的に……身体が覚えていることなのか、以前にも増して赤い瞳という自分の能力を恐れ始めた。それ以来、リアがその力を使ったことはなく、完全にコントロールできるようにと鍛錬も熱心にしていた。

レオとの“ファーストキス”も……覚えていなくて、レオはまた複雑な気持ちになったのだけれど、そのときはやはり安心のほうが大きかった。嫌われたくないという気持ちがまだ強かったのだ。

「思い出したの」

リアがチラッとレオに視線を向ける。

「思い出した?」
「うん。記憶修正のとき……夢みたいにいろいろな出来事が再生されたから」

レオの問いに、リアが答えて本を閉じた。そしてレオに向き直る。

「レオ、ずるい。私はずっと、ファーストキスは……」

そう言いながら、リアの声が小さくなって頬も桃色に染まっていく。リアはレオから視線を逸らした。

「俺だって、あれはお前が覚えていないと思っていたからカウントしてなかった」

だから、2人のファーストキスはあの夜――レオが無理矢理リアの気持ちを聞きだそうとした夜の、強引に奪ったそれだった。今、この瞬間までは。
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