恋するマジックアワー
「あー!洸くん、もぉどこに行ってたのよぉ」
え……? 誰?
鼻にかかった甘ったるい声。
そう言って人波を抜けて現れたのは、ショートヘアがよく似合うスレンダーな女の人だった。
カッチリしたトレンチコート。チェックのキレイめのパンツにハイヒールブーツをさりげなく着こなして、子供っぽくその頬を膨らませている。
洸さんは、彼女が歩いてくるのを見て「しまった」なんて呟く。
「全然帰ってこないんだもん、連絡しても出ないし……」
「ごめんごめん。立て込んでて」
洸さんの言葉に「はあ?」って綺麗な顔を歪めて、背後に隠れているわたしに気付いた。
驚いたように大きなその目を見開いて、真っ赤な唇を手のひらで隠す。
「ちょっとぉ、立て込んでるってこんな女子高生ナンパしてたわけ?サイテー」
「違うっつの」
ウンザリしたように肩をすくめた洸さんは、チラリとわたしに視線を落とした。
「この通り、俺忙しいから。早く家に帰るよーに」
「え? あの……」
わたしの言葉を聞かず、洸さんはその女の人とさっさと消えて行ってしまった。
「……」
な、なんだったの?
すごく仲良さそうだった……。
彼女かな?
いないって、洸さん一言も言ってなかったもんね。
帰ろう。
報われないのに、バカみたい……。
最初からわかってたことじゃない。
ちょっとでも期待して、本当にわたしはもう……。
重い足を引きずるように、洸さんが歩いて行った方とは反対へ向かう。
冬の太陽はあっという間に傾いて、すっかりわたしの影を長く伸ばしていた。