恋するマジックアワー
海風にさらされた唇は乾燥していて。
ゆっくりと唇を離した洸さんは、コツンとおでこを合わせた。
伏し目がちの瞳が、揺れてる。
まるでスローモーションで。
触れただけなのに、そこだけわたしのものじゃないみたいに。
ジンと熱くなっていく。
ああ……キスだ。
洸さんとキスしてる。
事故でもなんでもない、洸さんからの口づけ。
自然と閉じていた瞼をそっと開ける。
だけど洸さんは、ギュッと目を閉じると小さく呟いた。
「――……ごめん」
…………え?
海風が強い。
だから、よく聞こえなかった。
洸さん、今……なんて言ったの?
俯いて、茫然とするわたしから顔を逸らしてしまった洸さん。
海風に乱された髪が、その表情を隠す。
夜の闇に、溶けてしまいそうな洸さんの姿が、滲んでよく見えない。
いつのまにか、魔法の時間は終わっていた。