恋するマジックアワー


年の瀬が迫った12月の冷たい空気が全身を包む。
あたたかなお店にいたせいで、よけいにそう感じるのかもしれない。

どんよりと重たい雲の絨毯が、ビルの谷間から見える。
今にも雨を降らせそうだ。

こんなに寒いんだし、もしかしたら雪になるかも。


肺に入る空気が刺すように痛い。
それを噛みしめるように小さく深呼吸する。

グイッとマフラーを鼻まで押し上げて、ショルダーの紐を掴むと思い切り地面を蹴った。



――コツン!


靴音が石煉瓦の歩道に大きく響く。

風がゴウゴウと鼓膜を震わせる。
瞬間、昨日の海での出来事がフラッシュバックする。

額を合わせて、わたしを覗きこんだ洸さん。
その瞳は、ゆらゆら揺れていた。


「……っ……」


洸さん……。
洸さん、どうして?

あのキスは、なんだったの?
”ごめん”ってなに?

洸さんは、わたしのこと

どう思ってる?




ちゃんと素直になるよ。
だから……洸さんの本当の気持ち、わたしにも教えて。


―――お願い。
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