恋するマジックアワー

「…はあっ、……はあ、はあ」


息がうまくできない。
くるしい。

酸素が回らずに、軽いめまいに襲われる。


それでもわたしは、前へと走り続けた。



ようやく見えた見慣れた校舎。

冬の夜の訪れははやい。
薄暗くなった空を見上げて、震える手をギュッと握りしめた。



冬休み真っただ中の校舎に足を踏み入れる。
人気のなくなった校舎は、まるで違う世界に迷い込んでしまったような心細さを感じた。

それでもわたしはまっすぐに美術室を目指す。
目的の場所にはすぐについた。

さっきまであんなに乱れていた呼吸はどこへやら、今度はうるさいほどの心臓の音がわたしを支配した。


美術室は薄暗く、静まり返っていた。


息をひそめて中を覗く。
そこに洸さんの姿はない。


「…………」


明りがついているのは、準備室の方だった。

そこに居るのかと思ったけど、そこももぬけの殻。


どこ、行ったんだろう……。


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