恋するマジックアワー
「……はい、薬。飲んだらまた寝てください」
覚えてないんじゃしかたない。
けど、本当は大声で叫びたい。
「海ちゃん」
お盆を持って立ち上がったわたしを、洸さんは呼び止めた。
「……なんですか?」
ポイッと投げられた冷えピタが器用にごみ箱に入って行く。
無神経なうえに、横着。
本当に、この人はハタチ過ぎた大人なんだろうか。
「帰って来いよ。……帰って、くるだろ?」
そして、残酷だ。
優しくて、残酷な洸さん。
そんなふうにジッと見つめられたら、いやでも心臓が加速する。
トクン トクン
ダメだってわかってるのに。
忘れなくちゃいけない人だって。
「……うん。まぁ、家賃は半分だし」
「ははっ。 うん、半分だしな」
それなのに、こんなふうに笑うから。
7歳も年上の彼に、わたしの小さな母性本能がくすぐられる。
捨てなきゃいけない恋心が、煽られる。
「海ちゃんのお粥、めちゃくちゃうまかった。 さんきゅ」
寝癖だらけの髪が、ふわりと揺れる。
端正な顔が、くしゃりと崩れる。
洸さん、ずるいよ……。