恋するマジックアワー
宙ぶらりんのバレンタイン
街中が、ほんのりピンク色に染まる季節。
行き交う人たちも、どこか浮き足立っている。
真っ赤なリボンが、ショッピングモールを賑やかに飾り、甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐった。
「どこもかしこも、バレンタインだねぇ」
ウンザリしたように言ったのは、キャラメル色のボブヘアを揺らした留美子だ。
苦虫を噛み潰したような顔をして、盛大なため息をついた。
そんな留美子を見て、去年のバレンタインを思い出した。
―――………そういえば。
『榎本さん!受け取ってください』
バレンタイン当日。
駅のホームでチョコレートを渡されていた留美子。
眉間にシワを寄せた留美子はわたしを盾にして、彼から隠れちゃってたっけ。
ショックをうけて打ちひしがれていた青い彼の顔、忘れられない……。
「あげるの?」
「へ?」
留美子の声に、トリップしていた意識が引き戻される。
キョトンとしていると、留美子はじれったそうに言った。