恋するマジックアワー(仮)

観念して隠していたそれを出すと、少しだけシワになっていた。


「なんか迷う理由でもあんの?」

「んー…………」


ありまくりなのです。

唸るように眉を寄せると、牧野は「ふーーん」と小さく呟いた。
それから黙ってしまった牧野。
シンと静まったふたりの間に、下校をする生徒の声が遠くから聞こえた。

吐く息が白い。
冬の夕暮れはすぐに夜を迎えるだろう。


そろそろ帰らなくちゃ。
ああもう、どうしよう。お腹痛くなってきた……。

ここから、美術室は見えない。
でも、間違いなく洸さんはそこにいる。

渡すなら、本当に今しかないんだ。

< 160 / 222 >

この作品をシェア

pagetop