恋するマジックアワー(仮)

ど、どうしてここが……。

ハッとして振り向くと、牧野の姿はもうそこにはなかった。


「……牧野、知ってたの?」



呆然とする。


牧野の足は迷わずここへ来た。
あたしに「行け」と言った牧野は真剣だった。




…………牧野、ありがとう。
ウジウジだったあたしの背中を押してくれて。

一緒に来たがっていた留美子にも、心の中でお礼を言うとあたしは深く深く息を吐いた。



そうだよ。
今日、渡さないで後悔するより、渡して後悔しよう。

そんではっきりフラれてこよう!





「―――、よし」


コクリと頷いて、自分を励まして。

薄暗い廊下の先、明りの灯る美術室を目指した。

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