恋するマジックアワー

―――ガチャリ


「なんだ、まだ生徒が残ってたのか」







突然扉が開いたと思った瞬間、顔を出したのは生徒指導の先生だった。

そうだ。
この先生だ……バレンタインを厳しく取り締まってたの。

まるで他人事みたいにそんな事を思っていた。


呆然と突っ立っているわたしの手元に視線を落とした先生は、グッと眉間にシワを寄せる。



「おい。それはなんだ」

「え……」



あきらかに先生は、小さな紙袋を睨んでいる。


あーあ。
よりによってこの先生に見るかるなんて。


「チョコレートじゃないだろうな。見せてみろ」


低い唸り声。
先生は扉を勢いよく押し開けて、わたしに向かってきた。


みんな、この先生にだけは見つからないように、上手くやっていたのに。ってゆうか、そもそもその先生に渡そうとしてたんじゃん。

誰かの手に渡るんじゃなく、きっとごみ箱に捨てられちゃうんだ。
洸さんに渡しても、きっと、結果は同じ。

……わたしの気持ち、また宙ぶらりん。


迫ってくる先生の気配が色濃くなる。
目の前に影が落ちて、その手が紙袋を奪おうと伸びてきた。


「…………」


あっという間に、わたしから離れて行くそれをぼんやりと目で追っていた。


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