恋するマジックアワー


「あ、あの! あの、わたし!」

「はい!ここね。早く準備して!」

「っ!」



呆気なく手が離れたかと思うとトン!っと背中を弾かれた。
ついでにマフラーもコートもはぎ取られてしまう。



「あら、あなた……」



真っ白なウエディングドレスに身を包んだ花嫁が、目を丸くする。
花嫁のベールを持たされて、茫然と立ち尽くすわたしがいちばん状況についていけてない。


この人って……。どうして……。
ちょっと、うそでしょ…………。

ハクハクと口を動かして、何か言わなくちゃと考える。
でも、頭も真っ白。体は身動き一つしてくれない。


なんでこんな事に。



「……あの、」

「とりあえず、一緒に歩いてね」



そんなぁ!


花嫁さんはそう言って、真っ直ぐに前を向く。
すぐになじみのある厳かなクラシックが響いて、重厚な扉が開かれた。

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