恋するマジックアワー

「先生の俺はもらえないけど」



コテンと首を傾げると、上目使いでわたしを覗き込む。



「ここでは、ただの同居人だからさ」

「え……」



ポカンと瞬きを繰り返していると、洸さんは口角をクイッと持ち上げて楽しそうに笑った。
「だろ?」なんて言いながら、わたしの髪をワシャワシャと撫でる。


それって、どういう事?
やっぱり、一緒に住んでるから?だから、情が湧いて、もらってくれるの?

わたしを見下ろす優しい眼差し。

同情なんかじゃない。
でも、恋するそれとは違う、もっとあったかくて……。
そう、それは……親愛。


「洸さん……」

「というわけなので、海ちゃんには 洸さん特製鍋をたらふく食ってもらいます」

「え?……あ!」


ハッとする。

カレンダーを見ると、今日は3月14日。
ホワイトデーだ……。

だから、鍋。変なお返し。


「ふふ」

「あ、今年寄りくさいって思ったろ」

「バレた?」


すごく、泣きたくなった。
嬉しいのか、かなしいのか、それはわからない。

洸さんが返してくれたその気持ちが、わたしの望んでたものと違ったとしても、それでも。


特別になれたような、そんな感じがした。


洸さん……。
洸さん、わたしのこの気持ちはあなたに言えないけど。

でも、あたしだけは、この想いを大事にしてあげたい。

いいでしょ?
これ以上、なにも望まない。


だいすき。
だいすき、洸さん。


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