恋するマジックアワー
うわぁぁ。
あの時の事、覚えてる人はどれくらいいるんだろう。
牧野と話してる三嶋くん。
彼があきらかにわたしを気にしてるのはわかった。
しかも隣の席とか……。
きっとめちゃくちゃ気まずいし、嫌だろうなぁ。
申し訳なくなってきた……。
「立花さん……なんか、ごめん。その、気にしなくていいから」
「えっ」
三嶋くんは自分の席に去っていく牧野の背中を見ながらそう言って、最後にちらりと視線をわたしに移した。
「……あの、」
なんと返事をしたらいいのかわからなくて黙ったわたしに、三嶋くんは眉を下げて笑みを零した。
「せっかく同じクラスになれたんだし、仲良くしてよ。友達としてさ」
「それは……もちろん」
コクリと小さく頷いて見せると、今度は安心したように「よかった」と微笑んだ。
気さくな雰囲気でそういった彼に、わたしも笑う。
その時、ガラガラと教室の扉が開いて新しい担任が入ってきた。
初めてのHRが始まる。
高校最後の1年が、今日からスタートするんだ。
担任から窓の外へと視線を投げる。
向かい側の校舎。
その1階にある美術室。
そこに、もう洸さんの姿は見当たらなかった。