恋するマジックアワー
洸さん?
出ていこうとするわたしを引き留めるかのように腕を引かれ、思わず目を見開いた。
視線が交差する。
長い前髪の向こう側の瞳が、わたしを射抜くように見る。
窓から木漏れ日がさして、洸さんの背中を淡く照らす。
なぜか縋るような視線に感じて、胸がドクンって弾けた。
初めて見る、洸さんの知らない顔。
なにこれ……。
なによ、これは……。
「あの……」
ほんの一瞬。
洸さんも自分でなにが起こったのかわからないって感じで、ギョッとして息を飲んだのがわかった。
すぐに離れていくその手が、ぶ厚い眼鏡の縁を押し上げる。
「あー……もし、気分が悪くなったり頭痛が出てくるようなら病院行って下さい。 絶対に無理しないように」
「………。はい」
すっかり隠された表情は、もうどうなっているのかわからない。
少しだけ俯いた洸さん。今、なに考えてるの?
「失礼しました」
そのあとのことは、まったく覚えていない。
せっかくクラスが優勝して、1週間の学食免除をもらえたとしても、クラスメイトたちのわたしを心配する声も。
なにもかもが、頭の中をすり抜けていく。
ただ、あるのは。
洸さんのことだけ。
「海ちゃん?」
留美子が心配そうにわたしを覗き込む。
たぶん、泣きそうになってたんだと思う。
わたしは妹。
洸さんにとって、妹のような存在。
激しく波打つこの気持ちは、ぜったいに洸さんに見せない。
迷惑になりたくない。
そう思っているのに……。
好きがあふれて、とまらないよ……。