恋するマジックアワー


その日の帰り。
美術準備室から三嶋と海ちゃんが見えた。

少しだけ距離を開けて歩くふたり。
三嶋の自転車のかごに海ちゃんのバッグが収まっているのを見るに、一緒に帰るのだろう。



「…………」




まただ。
胸の奥底から湧き上がる、この黒い感情はどうしたら消えるんだ。


「……勘弁してくれ」


窓から背を向けて、白い布がかけてあるキャンパスの前に座る。





俺は、彼女を傷つけてばかりだ。
『告白』も聞けなかった。



ーー妹?
なにが妹だよ。

そんなこと、思ったこと一度もないじゃないか。
もし、彼女が生徒でなければ。
俺はどうしてた?
ただの同居人を願ってるのは、俺の方だ。



海ちゃんが俺を吹っ切ろうとしてるのも、わかってる。

そうだ。
それでいい。

海ちゃんも、俺なんかを見てないほうがいい。
年相応の恋愛をして、今を楽しむべきだ。
俺が、彼女の中に入り込むべきじゃない。


頭では、理解している。
―――……しているのに。



「……はあ」


油絵の匂いが肺を満たす。
目の前のキャンパスを見つめ、それから宙を仰いだ。


< 194 / 194 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:23

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

極上な恋のその先を。

総文字数/44,936

恋愛(オフィスラブ)82ページ

表紙を見る
極上な恋をセンパイと。

総文字数/137,239

恋愛(オフィスラブ)243ページ

表紙を見る
ヒミツの王子さま!

総文字数/122,869

恋愛(ラブコメ)214ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop