恋するマジックアワー(仮)
「立花。 デートしよ」
突然のことだった。
「……え?」
「デート。 今度の休み、俺とデート行って下さい」
な……なな、なん……。
教室のど真ん中。
クラス中の視線を集め、さらにパニック。
目の前には、大きなリュックを背負った三嶋くん。
彼は他の何も見えてないみたいに、あたしをまっすぐに見下ろした。
「前に立花言ってたろ? お礼なにがいいか考えてって」
「あ……」
クラスマッチの時、気を失ったあたしを保健室まで運んでくれたのは三嶋くんだった。
だからあたしは、お礼になにが欲しいか考えてって言ったのだ。
だけど、その”お礼”がデートって……。
かあああって顔が熱くなる。
ただ黙ってあたしの答えを待つ三嶋くんの真剣な瞳に、吸い込まれそうな感覚になってしまう。
ドッと盛り上がるクラスメイトたち。
冷やかしの声やらからかいの声やら、頭の中ぐちゃぐちゃ。
ど、どうしよう。
なんて言えば……。
その時だった。
「三っ嶋ぁ~!」
「い………ってぇ」
ドゴォ
ものすごい音がしたと思うと、視界から三嶋くんがフェードアウトしていく。
留美子が三嶋くんの背中めがけて飛び蹴りした瞬間だった。
「…………」
一気にみんなの目が留美子と三嶋くんにうつる。
「あんたね~、海ちゃん誘うんならまずあたしを通しなさいよ~!!!
勝手に誘うなんて10億万年はやいんだからね、わかってんの!?」
「え、は? 江藤の許可!?」
床にうずくまったまま、三嶋くんが顔を上げる。
「あったりまえでしょ、今度かならずあたしを通しなさい!」
「いやいやいやいや……。え!?」
可憐な留美子が仁王立ちでする姿と、転がった三嶋くんにクラス中が笑顔に包まれた。
……留美子。
困ってるあたしを助けてくれたんだとわかって、胸がぎゅっとなった。