恋するマジックアワー(仮)
三嶋くんが連れてきてくれたところは、なんとも意外な場所だった。
「……ここ?」
立ち止まって眺める。
鬱蒼と生い茂る緑の向こうに、なんとも味のある建物。
その入り口に木製の看板が立てかけられていて、【Gallery・TAO】と書かれている。
「今、若い世代の作家を集めた個展やっててさ。 ちょっと覗いてみたくて」
そう言った三嶋くんはチケットを二枚取り出した。
「時間があるってわかってから用意したから、言ってなくてごめん。 こういうの嫌だった?」
「え、うんん」
少しだけ声のトーンを下げた三嶋くんに慌てて首をふる。
「あ、違くて。 三嶋くんがこういうのに好きだったなんて、ちょっと意外で」
「デザインとかグラフィックに興味あってさ」
「へえ! あれ、てことは美術部?」
運動部の噂はよく聞いてたけど。
もしかして本当は美術部員だったりして。
でもそしたら洸さんが三嶋くんの事知らないはずないし。
どういうこと?
「入ってないよ。 今のことろ、独学」
「行こ」と言って三嶋くんは緑のトンネルをくぐっていく。
あたしは慌ててその背中を追いかけた。