恋するマジックアワー(仮)
「えええと……、子ども? ごめん、ちゃんと順を追って最初から説明して」
洸さんは手に持っていたグラスを少し乱暴にテーブルに置くと、あたしの隣に崩れるように座った。
「結論からいうと、あたしママになったのよ」
あっけらかんとそう言って笑う愛さん。
順を追わずに結論言った!
フランクすぎる……。
本当に驚いている洸さんと、その反応を楽しむ愛さん。
片手で顔を覆った洸さんはなかば諦めたように深いため息をつく。
「……それで?」
「これが、あたしの子。 名前はエマよ」
そう言いながら愛さんはスマホを取り出してあたしたちに見せてくれた。
そこに映っていたのは、赤毛で青い瞳の可愛い女の子と愛さん。そして……。
「んで、こっちが旦那のアデル」
赤毛の大きな男の人。
まるでクマさんのような大きな体のその人は、愛さんよりもだいぶ年上に見えた。
3人で映っている写真はすごく幸せそう。
「今はふたりとも向こうにいて、あたしだけちょっと帰ってきたのよ。本当は洸に会ってもらいたかったんだけど、アデルの仕事の都合がつかなくてね。 今度の長期休暇にでもまた3人で帰ってくるわ」
そういった愛さんは思い出したようにこう付け加えた。
「あ、そういえば真帆にも伝えたらちょうどいいからってこっちに来るって言ってたけど」
「えっ?」
ハッとしてスマホから顔を上げる。
ま、真帆さん?
真帆さんはうちのパパの奥さん。
つまりはあたしのお母さんなわけで。
こっちに来てからなんだかんだ言って回避してきたのに……。
「えと、来るっていつ頃……」
「明日よ。 夜一緒にこの家で食事することになったんだけど……、って海ちゃん大丈夫?」
「……」
だ、大丈夫なわけないでしょ~!?
真帆さんだけじゃなくて、パパも来るはずだし、愛さんじゃなくて洸さんと住んでるのバレちゃうんじゃ……。
そしたら絶対うちに戻らされちゃう……。
ダラダラと冷や汗ばかり流れるだけで、あたしの思考回路は停止してしまった……。