恋するマジックアワー(仮)
「海~会いたかったぞ~!」
ぎゅむ!
こそこそっと玄関を覗き込んだその瞬間、懐かしい香りに包まれた。
「ぱ、パパ……いたい」
まるで映画のワンシーンのように、パパの腕の中に思い切り押し込まれてしまい、されるがままのあたし。
そのすぐ後ろでは、真帆さんがクスクスと笑っている。
「いらっしゃい、真帆。それに浩介さんも」
「突然お邪魔しちゃってごめんね? 愛、これ」
真帆さんの手にはかわいらしい紙袋。
その中身は、女の子ようのワンピースだ。
「え、なに? わぁ可愛い服! 見てみて、洸。エマに早く着せたい~」
あたしを胸に抱いたままだったパパの力がようやく離れた。
そしてそのまま、リビングのドアに寄りかかってこちらの様子を眺めていた洸さんにツカツカと歩み寄る。
「愛さんの旦那さんですか!このたびはおめでとうございます」
「えっ? あ、いや僕は……」
ギョッとしたように、何度も瞬きを繰り返す。
勢いよく洸さんの手を掴むと、何度も大きく握手をするパパをあたしも真帆さんも呆然と眺めた。
「海がいつもお世話になっています。 お子さんがいるって聞いてたら海の居候も考えましたのに……お邪魔になっていないでしょうか?」
「パパっ! 洸さんはね、」
愛さんの弟だよ!って、そう言おうといたあたし。
でも、その言葉を言う前に、誰かに肩をポンっと弾かれた。
「ほらほら、いつまでもここでお話してたら失礼だよ。 お邪魔しましょう。とってもいい匂いしてる」
……真帆さん?
それもそうだねってパパは恥ずかしそうに頭を掻く。
真帆さんは手に持っていた大きな荷物をパパに渡すと、そっとあたしに耳打ちをした。
「洸君のこと、今日のことろは黙っておこう。また海ちゃんの口からちゃんと聞きたいし」
「……真帆さん」
そっか。
真帆さんは愛さんじゃなくて、洸さんとあたしがこの部屋で暮らしてるの知ってるんだ。
そりゃそうか。
ちゃんと、説明しなきゃだよね。
それでもあたしが、ここにいる理由。
光の溢れるリビングに入っていくパパたちを見ながら、あたしは小さくため息をついた。