恋するマジックアワー
時計を見ると、もうすぐ6時。
わたし……しっかり浴衣着ちゃってるけど変じゃないかな。
あ、そろそろ行かないと遅れちゃう。
昨日、嫌そうにしてた牧野だけど、きっと約束は守ってくれるよね。
……わたしが急に行けなくなったって言えば、ふたりきりにしてあげられるかな。
「……」
そうんな事を思って、フルフルとそれをかき消した。
ダメダメ。
そんなのフェアじゃない。
留美子がせっかくわたしを誘ってくれたのに。
とにかく楽しもう!
「それじゃ、行って来ます」
玄関へ向かうわたしに、洸さんはソファに座ったまま言った。
「海ちゃん。すっげえ可愛いよ」
「え?」
なにが?
キョトンと首を傾げると、視線だけを向けてそれからキュッと口の端を持ち上げた。
「ーー浴衣。綺麗だ。 自信持て」
「…………」
短くそう言った洸さんからしばらく目が離せなかった。
喉の奥が、なぜかギュッと痛くて。
泣きそうになってしまったんだ。
もしかしたら洸さんは、今日のわたしの覚悟を見抜いていたのかもしれない。
「うん、ありがとう……」
コクリと頷いて、わたしは巾着を腕の中に押し込めると下駄を履いて、待ち合わせ場所へと歩き出した。