恋するマジックアワー

「ほら」

「わ、わたしはいいよ、自分で……」

「いいから、貸して」


わたしが持っていた巾着が、牧野に持ち上げられる。
そして、代わりに半ば強引に手に持たされた。


……なんなの。
わたしのことは、そんなに甘やかさなくていいんだってば。

というか、牧野にとってはこれが普通なんだろうか……。



「ほら、海ちゃん、あれ狙お」

「え、どれ?」



悶々と考えているわたしの想いを吹き飛ばす、留美子の明るい声。

留美子の指差した先を目で追うと、それはカラフルなシュシュだった。


「海ちゃんがあれで髪結んだら絶対いいと思うんだ。ふたつあるし、お揃にしよ」

「あ、いいね!そうしよ」



ふわりと微笑む留美子。
その笑顔はまるで天使だ。

留美子がもっと嫌な子なら……。
わたしは迷わずこの気持ちを認めてたのかもしれない。

大丈夫。 わたし、笑えてる。



ふたり並んで、鉄砲を構える。


ドキン ドキン


「……ッ」



パンッ!



シュシュが入った箱が、見事に倒れた。


「おお、やるねお嬢ちゃん」

「やったぁ。わたしピンク色取れたぁ」


店主から渡されたそれをさっそく手首に付けて、留美子は飛び跳ねた。
留美子の着ている白地の浴衣に、それはまるで1輪の桜のようだった。


よし、わたしも……。



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