恋するマジックアワー
「……」
……洸さん?
見ると、その手には傘とコンビニに袋が見えた。
「雨すごいけど、大丈夫だった?
……って、あーあ、ずぶ濡れじゃん。チョイ待ってろ」
ポンっと濡れた髪をひと撫ですると、洸さんはガタガタと慌ただしく部屋の中へ消えて行った。
…………。
そしてすぐに大きなバスタオルを持って現れた洸さん。
無造作にわたしの頭にそれを乗せて、ワシャワシャと乱暴に拭き始めた。
「……」
されるがまま。
黙って拭かれているわたしに、洸さんは呆れたようにため息をついて、ちょっとだけ可笑しそうに言った。
「ったく、何してんの。風邪引いたらどーすんだよ。雨宿りとかして来いよ。それか俺を呼ぶとかだな。……あー、連絡先知らなかったか」
ゴシゴシされて、痛い。
痛いよ……洸さん……。
「……っ……」
「……海ちゃん?」
ダメだ。
……自分が思ってたよりずっと、苦しいみたい。
そんなに牧野が好きだった?
留美子がとられちゃうのが悲しい?
ううん、違う。
これは、大事にしてあげられなかったわたしのかわいそうな気持ちに対してだ。
拭いても拭いても溢れてくるその想いを、わたしにはもうどうする事も出来なかった。