恋するマジックアワー

ガクッと足から力が抜けて、その場に崩れ落ちる。


それでも、ずっと頭の中に響く
牧野の声。


『好きだよ』


わたしに言った言葉じゃないのに。
それでも、壊れた機械のように。ずっと、ずっと繰り返されるその言葉。



「……っ、バカ、だ……。
じ、ぶんの気持ちに……、気付かないフリして。
……っ、傷つくの、が……怖くて、」


何言ってんの……わたし。
洸さんなのに。


「ほ、ほんと……バカ、なの……う、うぅ」

「……」


洸さんが見てるのに……。



「でも、大好きな人達が……幸せで、いて……くれたら……わたし……」



それで、いい。
わたしは、いいって、そう思うから。


何も言わず、黙ってわたしの言葉を聞いていた洸さん。



それから……。

嗚咽まじりのわたしの頭を、バスタオルごと抱き寄せた。


ふわりと広がる、柔軟剤の香り。
それから、コーヒーのほろ苦さと、かすかに油絵の匂い。

洸さんの、匂い。



そして、冷えて震える体に、直接伝わる洸さんの体温に、張りつめていた糸がプツリと切れた気がした。

キュッと腕に力が込められて、洸さんは小さく囁いた。



「がんばったな」



たったそれだけ。
優しく、まるで甘やかすように、そっと囁かれたその言葉。
その言葉にわたしはすごくホッとして。

洸さんの背中に、気付いたらしがみ付いていたんだ。


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