恋するマジックアワー
「言わなかった? 学校では俺と話すなって」
「それは……え、ちょ……洸さん?」
ジリジリとにじり寄る洸さんは、あっという間にわたしを壁に追いやった。
視界いっぱいにダークブルーのネクタイ。
目のやり場がなくて、オロオロと俯いたその時、トンって顔の横に手が伸びて洸さんは腕の中にわたしを閉じ込めた。
「いい? 俺達の事は秘密。したがって、洸さんではなく『先生』だ」
「……っ、洸さん近い」
秘密って言うならこの体勢こそ見つかったらヤバいんじゃないの?
いくらここが美術準備室で、疎外された場所だとしても!
迫った胸を押しやると、細いと思っていた胸は意外と筋肉質でビックリした。
戸惑ったわたしの手はいとも簡単に掴まって、自由を失う。
「えっ、こ、こう……」
「ダメだって。ほら、言ってみ?
セ ン セ イ」
なに?
なんなの?
瞳を覆い隠しそうな程長い前髪の隙間から、鋭いほどの眼光がわたしに突き刺さる。
洸さんはそう言って、クイッと口の端を持ち上げると意地悪く微笑んだ。
その顔が近づいて、唇と唇が……。
「……っ、せ、先生っ、先生ごめんなさいっ」
ずるい、ずるい!
こんなのってない!
「よし。イイ子だ」
言って満足そうに、わたしを上から見下ろす洸さんは、とんでもなく優しく笑う。
それに、わたしが慌てふためいてるのを、すごく楽しんでる。余裕なその表情からそれは伝わって、余計に素直になるのをためらった。
わたしの事、気にかけてくれてたり優しいななんて思ってたのに……。
『センセイ』ってそう言った瞬間、呆気なく離れた熱は冷める事なんかなくて、もっともっと熱くなってヤケドしそうだ。