恋するマジックアワー
パチパチと瞬きを繰り返していると、洸さんは合わせた手をちょっとだけ下げてわたしの顔を見上げた。
「俺が悪かった。 頼むから機嫌なおしてくれ」
そう言った洸さんが、まるで叱られた子供みたいで。
謝った……。
な、なんなの……この人。
なんでそんな、捨てられた子犬みたいな目でわたしを見るの。
眉毛、ハの字になってる……。
不意打ちの出来事に、絶対だめだって思ってた人に胸がキュンてときめいた。
海!気をしっかり持つのよ!
洸さんのペースなんかに飲まれちゃだめ!!
「……べ、別に……。
別にわたし怒ってない。だってわたし、先生に言われた通り、関わらないようにしてるだけだもん」
あえて先生と呼んだ。
しっかりと線を引くため。
ちゃんとわかってるって洸さんに伝えるため。
でも。
ジッと見つめられて、居心地が悪くて慌てて視線を逸らす。
……ここは一旦引いて、素直になるのは明日からにしよう。
「何も問題ないですよね。それじゃあ失礼します!」
さっさと背向けて部屋に戻ろうとしたわたしの腕を、洸さんはあろうことか掴んで引き留めた。
「問題ならある」
「……な、なにが?」
首を傾げたまま、洸さんを見下ろす。
正座した両膝の上に乗っていた手が、もどかしそうに首元をさする。
「せっかく一緒に住んでるのに、家にいても居ないフリするのは不自然っつーか」
「……」
はい?
って、それってわたしじゃなくて、洸さんがわざとそうしてたんでしょ?
「家賃シェアしてるだけの関係ってのも、道徳的にどうかと思うわけで」
なにそれ。
それだって洸さんが……。
「や、違うな。そういうことじゃなくて……つまり。
この前はごめん! 女の子が一緒に住んでるって、俺がもっとちゃんと気を付けるべきだったんだ。なんなら俺の顔も見たくないだろうけど……でも聞いて欲しい。 海ちゃんに嫌な思いさせて本当に悪かった。ごめん。 あの時頭真っ白になって、なんのフォローも入れらんなかったです」
…………。
再びしっかりと合わせられた手のひら。
洸さんはその手をぐっと額をよせてまた「ごめん」って言った。