だから、恋なんて。
1章 日常
四十路会
駅からほど近い高層ホテルの四十階にあるフレンチレストラン。
予約していた窓際のテーブルからは信じられないくらいの綺麗な夜景。
車のライトが作る光の筋と、様々な建物からのネオンがゆらゆら揺らめいて、ここの高級感を更に増している。
「はいはい、三度目の乾杯しよっ」
「三度目じゃなくて五度目ですけどね」
「オッケー、ってあれ?私のグラスもう空じゃん。てか、ボトルも空っぽ?」
「あら~、それじゃ、も一本いっちゃう?」
「さっきからそればっかりですよ?」
「オッケー、オッケー、そうしよ」
その高級感漂うレストランの雰囲気を台無しにする会話に、呼びもしないのに近くに控えていたギャルソンが音もなくテーブルの横にやって来る。
「あ、ワインリスト欲しいな。あと、チーズとか食べたいなって思うんだけど…」
私の向かいに座り、程よく酔っ払っている間瀬 千鶴(ませ ちずる)が、まるで友達に頼むように話しかける。