だから、恋なんて。
朝
うっすら膜がかかったようにぼんやりとした景色のナースステーション。
いつもはモニターの音も、医療機器の作動音もはっきり耳に聞こえてきて、うるさいくらいなのに。
なぜか聞こえるのはコツコツと近づく靴の音だけ。
デスクに両肘をついてボーっとしている私のすぐ横に、いつもは寡黙な医者が片腕をつく。
色白で血管の浮いたその腕は、意外と引き締まっていて、悪くない。
視線は感じるのに、何も話しかけてこないその人。
ゆっくりと視線を上げると、待っていたかのようにもう片方の手が頬に添えられる。
病院内でのありえない状況に、他のスタッフがいたらどうしようかと辺りを見ようとするけれど。
しっかりと捉えられた視線は、逸らすことを許さない。
ゆっくりと近づく視線は、この先に何が起こるか暗に知らせるように甘くて、妖艶だ。