だから、恋なんて。
お互いほとんど手をつけなかったコーヒーカップを片づけながら、直人さんの千鶴を大切に想う気持ちを羨ましいと思う。
自分じゃない誰かのために他人に頭を下げる。
それは、体裁とか形だけのものじゃなくて、もちろん仕事上で発生するそれとも全く違う。
きっと昨夜は千鶴のことを考えて、うまく寝られたかも怪しくて、仕事していてもどうしても気になって、年賀状の住所を頼りに家まで来たはずで。
誰かのことを想って、日常生活までも乱されてしまう……そんな日々ばかりが続くんじゃあ疲れてしょうがないのかもしれないけれど。
それはわかっていても、心がうまくコントロールできない…もう忘れてしまったそんな日々を、少しだけ羨ましいと思いながら、またソファに寝転がった。