だから、恋なんて。
「帰るの?は変だよな、うん。そういう意味じゃなくて、美咲さん、俺が病院行くのわかったんだよね」
「そう言ってたでしょ、電話で」
「うん、だから、ありがとう」
「は?」
「やっぱり、美咲さんなら彼女にしてもいいかな」
ニカッと歯を見せて無邪気に笑う。
だめだ、やっぱり全然わかんない。ほんと、この人よく医者になれたね。
誤解を解くといいながら、新たな疑問をどんどん植えつけるんだから。
言葉を発する気にもなれずに、軽く首を振って軽くため息をつく。
それを全く気にもしていない様子の医者は、視線を逸らした私をのぞき込んでくる。
「送っていけなくて、ごめんね?」
言いながら今までつかまれていた手はパッと離される。
訳が分からないけど、無駄に近い距離に鼓動が早くなるのを感じて、くるりと踵かえす。
ドアを開けると、秋らしいひんやりとした空気が流れ込み、火照りかけた頬を冷やしてくれる。
「じゃあ、お疲れ様」
言い捨てるように振り返りざま、閉まりかけたドアの隙間に手を振る医者が見えた。
何故か満足そうに微笑む医者をみて、少しだけ、ほんの少しだけど、ここにきてよかったと思った。