だから、恋なんて。
患者さんがいないところでは乙部さんではなくて美咲さんと呼ぶ榊は、たいして重要でもないように軽い口調で言う。
「口ぐせ?」
「そうです。そのオッケーってやつ」
オッケーってやつ?口ぐせってほど連発してるかな。しかも年代関係ある?
「そんなに言ってる?」
「気づいてないんですか?私わざと言ってるのかと思ってましたよ」
少し驚いたように眉をひそめる榊。
いや、ていうかわざとなわけないでしょうよ。
「美咲さんってなんか年齢不詳なところあるんで、私は若くないのよって防御壁のつもりで言ってるのかと…」
スタスタとフロア外に歩いていく榊は、「これ片づけてきます」と言いながら行ってしまった。
ICUという場所柄、簡単に担当患者さんの傍を離れるわけにはいかないので、席を外すときは誰かに声をかけていく。
で、かけられた人は、その子の担当患者さんのモニターアラームにも気を配らなくちゃならない。