だから、恋なんて。
反射的に引こうとするけれど、絶妙な力加減で拘束されている手は動かすことができない。
どうすることも出来なくてぐっと握ったこぶしの中は、早くも湿度を感じるくらいで。
余裕そうにうっすらと笑みをたたえた青見先生とは反対に、軽くパニックになって耳どころか頭皮までも赤く染ま
っている気がする。
「……あ、あの…離して、くださ…」
必死でそうしぼりだすと、今回は邪魔が入ったわけではないのに、あっさり離される。
拍子抜けして、きっと私はさぞ間抜けな顔をしていたと思う。
「その様子じゃ、ただの噂みたいですね」
フッと大しておかしくなさそうに笑って、カルテ画面に視線を移す。
その横顔は、もうすっかり医者の顔。
さっきまでの妖しい雰囲気はどこへやら。
突然の展開にそのまま呆けていると、「じゃあ、お疲れ様でした」と私を見ることもなくICUを出ていった。