だから、恋なんて。

「メ、メス刃って」

「友達の分も込みですから。いいんですよ、あの人は外科医じゃないんですから、手に傷ができようが指が千切れようが」

いや、榊さん、外科医じゃなくても指は千切れちゃだめでしょ。

高らかに笑う榊はお皿を下げに来ていた店員さんに「ウーロンハイひとつ」なんて注文している。

やっぱり飲んでいたか、こいつめ。

「え、それじゃあ、その榊の友達って同業じゃないんだ?」

「そうですよ?友達っていうか幼馴染なんですけど、おじいちゃんがあの人の患者さんで、たまたま診察に付き添
ってきた時に会ったらしいです」

へぇ~、患者さんのお孫さんは対象になるんだ……トラブったらそれこそ職場の人間より面倒そうなのに。

それじゃあ前に四十路会の帰りに見かけたあの綺麗な人も、そういう対象だけってこと…。

あんなに幸せそうで、恋人同士にしか見えなかった二人なのに。

でもそれなら青見先生にとって恋なんてお遊びで、本気になることもなくて、ただの時間潰しで。

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