だから、恋なんて。

文字通り目を白黒させていると、さっきまでの妖艶な雰囲気はどこへやら、腰を折るようにして笑う医者。

もしかしてそれって、夢に出てきた青見先生の話なんじゃぁ……。

なにそれっ!?千鶴、そんなことまでチャラ医者に話したわけ?

って、あれ?千鶴ってそんな詳しく知ってたっけ?
ん…でもこの話したのって四十路会と、あとは榊に話したくらい……。

ダメだ……今の私はあっちから援護射撃で撃たれるくらいにアウェーなんだった。

「そんなに欲求不満なら、現実で、ちゃんと相手したのに」

「…間に合ってます」

「ハハッ」って声あげて笑う医者に、フッとさっきまでの空気が消え去った気がする。

でも結局は、決定的な言葉を言われるでもなく、千鶴が言った通りに送り狼になるわけでもなく。

その後のチャラ医者は、ごく紳士的にタクシーで私をマンションの玄関前まで送ってくれた。


< 293 / 365 >

この作品をシェア

pagetop