だから、恋なんて。

もう顔もはっきりと思い出せないくらいなのに、あの耳元で聞いた粘着質な声だけが忘れられない。

確か、どっかの病院の娘と結婚して、おまけに婿に入ったとか。

遊ぶだけ遊んどいて、ちゃっかりしている。

ろくでもない噂を流して、私の心にグッサリと傷を刻んでいった男。

確か名字が変わって、鎌田とかなんとかになってたっけ。

仕事だから、余計な話はしなくてもいい。

酔ってるわけでもなければ、暗い夜道でもない。

それでも、アイツの顔をもう一度思い出さなくていいことを願ってしまう。


……今日の夜勤が、当直の手を煩わせなくてもよい勤務であることを祈るだけだ。

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