だから、恋なんて。
これでHappy ending?
とりたてて大きなトラブルも急変もなく、日勤続きの榊がいつもより早くICUに姿を見せて、やっと張りつめていた気持ちが緩んだ気がした。
携帯のアラームで目が覚めてフロアに出た時にはもちろんアイツ…鎌田はもういなくて。
それなのに微かに残る香水の香りに吐き気がこみ上げた。
医者のくせに勤務中に香水なんかつけるなっての!って腹立たしくて、手指消毒用のアルコールスプレーを振り撒いてやったわ。
「美咲さん、お疲れ様です……あの、大丈夫でした?」
鞄を置いた榊が業務にかかるまえにするりと近寄ってきて、心配気に声をかけてくる。
いつもはギリギリ始業前に到着の榊なのに、今日は私を気にして早く出てきてくれたんだと思うと、なんだか嬉しくて疲れた顔にも笑顔が浮かぶ。
「うん、ありがと。最悪なことにアイツの顔は拝んだし、気持ち悪い声もまだ耳に残ってるけど、でも大丈夫みたい」
「げぇっ、やっぱりここに来たんですか?急患とかじゃないですよね?」
フロアをくるりと見渡しながら榊が言う。