だから、恋なんて。

昨日日勤だった榊には、新入院がなかったことも新たな機械が増えてないことも一目で分かるはず。

「そう。全然役に立たないくせにね」

わざとらしく苦い顔をして毒を吐いて、ホッとしたような緩い顔の榊と笑い合う。

そんなことで。
仮眠のような短い休息でもとれば、鎌田のことなんか心の隅にしか残らない。

それなのに。

どうして、こんなにも落ち込んでいるんだろう。
どうしてこんなに腹立たしいんだろう。

アイツが噂のことを知ってて、それを隠してた。
もしくは本当に聞いたことがなかった。

確かにアイツは知ってたとも知らなかったとも言ってない。

けれど、鎌田の性質からして同期に噂を言いふらしてないなんてことはあり得ない。

それに、直接鎌田から聞いてなくたって、それくらいの噂誰から聞いたってかまわない。

やっぱり、簡単そうな女をからかってただけなの……?

だからそんな噂なんて知らないフリしてたの……?

傷ついたというより、沸々と湧き上がる怒りのような腹立たしさを覚える。

知ってたんなら知ってたで、あからさまに誘ってくる方がまだましかとも思えてくる。

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