だから、恋なんて。
なんとなく。
ホントになんとなくだけど。
ここで、アイツが待っているような、そんな気はしていた。
「お疲れ様」
「……うん」
更衣室に向かう廊下の角を曲がった先。
自販機の横にある長椅子に、白衣のくせに行儀悪く足を投げ出して座る医者。
近づいてきた私に気付いて、くわえたままのストローから口を離して、まるで、すごく愛しいものを見つめるように優しい瞳で微笑む。
ちょっと、これはズルくない?
こんな顔されて、当たり前のように待ってられたら。
さっきの榊の話も頭の中をぐるぐるとまわっていて。
夜勤中浮かんでいた責める言葉が、一つずつ消えていく。
自販機まで来て、通り過ぎることも隣に座ることもできない私の手に、「はい」っとパック入りのジュースが手渡される。
ご丁寧にストローまで挿して。