だから、恋なんて。
「もう、本当に無理なんです。私はきっと、北住(きたずみ)先輩のことをずっと好きで、そうやっておばあちゃんになっちゃうんですよ」
涙は流れてなくても、泣き声のように聞こえる雫の呟きに、かけるべき言葉が出てこない。
確か前回こうやって雫の想いを聞いたのが三年前くらいだっただろうか。
あの日、二人目の子供が誕生したと幸せそうに報告してくれた先輩に「おめでとうございます」と言うのが精いっぱいだったと。
他の人を好きになれないなら、いっそのこと好きという気持ちを忘れてしまいたいと。
長く長く、実ることのなかった想いを忘れてしまいたいという雫に、私たちはそろって「時間が解決してくれる。きっと忘れられる」と言葉をかけて、一緒に泣いた。
本当に心の底からそう思っていた。
だって家庭円満で順調に子供を授かっている幸せな人に対する想いは、続けられるはずがない。