だから、恋なんて。
ドレスのように華やかなワンピースを着た女性とよく似合うかっちりした細身のスーツを嫌みなく着こなして。
病院では見たことがない妖艶な笑みを浮かべながら隣の女性の耳元にキスするように唇を近づけて何か囁く。
女性は紅いルージュを綺麗に引いた唇に緩やかな笑みを湛えて、青見先生の胸元にすり寄る。
まるで、映画の中のワンシーンのようにお似合いの二人は、その後も笑い合いながらタクシーを捕まえてどこかに行ってしまった。
「美咲さん?」
思わず足を止めてそれに見入っていたらしい私を、数歩進んだところから振り返って首を傾げる雫。
「あぁ…ごめん。知り合いかと思ったけど違った」
手を振って足早に雫に追いつきながら、また、恋の芽も生まれる前に枯れてしまったような気がした。