だから、恋なんて。
そして、そのまま。
妖しく射るような視線を私に向けたまま、口元を不敵に歪めてからゆっくりと口を開く。
「彼女、いませんよ」
私に言い聞かせるかのように言ったあと、高橋さんには視線も移さずにそのまま立ち上がってICUを出ていく。
その後姿を私と同じように見つめている高橋さんに気付いて、私がいたことは知られちゃいけない気になる。
足音を立てないように反対方向に向き直り、そろそろとICUの奥にある休憩室に入ったところで、やっと肩から力が抜ける。
緊張していたせいか喉が渇いて、冷蔵庫にある紅茶のペットボトルを取り出して口を付ける。
ゴクゴクっと半分くらいを一気に飲み干して、寝るために置かれているソファベッドに座る。