だから、恋なんて。

「あ、乙部美咲さん、発見」

「…っ、んぐっ……ゴホッゴホッ」

新種発見とでもいう感じで、聞きおぼえのない声の主に突然発見され。

弱った気管に紅茶の渋みが流れ込んで、激しくムセる。

思わず壁に手をついて、自分で自分の胸を押さえながらむせ込むと、どうやらその声の主「ごめん、ごめん」とか言いながら背中をさすってくれている。

いや、謝られてもね、絶対アンタ笑ってるしね、今。

うっすら涙目で視界が歪んでいるけれど、なんとか首だけを後ろに向けて声の主を確かめようと試みる。

するとまたも突然に目の前に人の顔が目一杯映しだされ、反射的に顔を後ろに引いてしまい、ゴンッと自分の後頭部で鈍い音が響いて、ジンジンとした痛みが次第に湧いてくる。

「あちゃ~、大丈夫?」

ほんと、大丈夫なわけないのよ。

夜勤明けでくたくたで、紅茶にムセて、挙句に壁に頭をぶつけるなんて、普段なら考えられないことだし。

これがこんなに疲れた夜勤の日以外ならば、まず紅茶でむせることもなかったはず。

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