だから、恋なんて。
「……お疲れ様です」
考えることを諦めた私は、この場にいるのが得策じゃないことだけは本能で感じていて。
この軽いノリは、久しぶりに感じるあの噂を聞いたからかもしれない。
『今夜どう?』なんて気持ち悪いことを言われる前に、くるりと背を向ける。
「あっ、美咲さん、待ってよ」
さほど慌ててもなさそうに呼び止める声は聞こえているけれど、それに続く言葉を聞きたくなくて振り返らずに歩き出す。
「ねぇ、今度さ、ご飯でも食べに行かない?」
打ち付けた後頭部がまたしてもズキッと痛みを増したような気がした。
いったいいつになったらこの噂に悩まされなくてすむんだろう。
ふぅっと一つ大きく息を吐いて、化粧が剥げてひどくなっているであろう顔に精一杯の笑顔を貼り付けて振り返る。
「絶対、行きません。失礼します」
チャラ医者の顔もはっきり確認もしないまま、言い逃げして更衣室に駆け込んだ。