だから、恋なんて。
受話器の隣にある開錠ボタンを押して、すぐに上がってくるだろう友人のために、玄関の鍵も開けておく。
千鶴が家にくるなんて珍しいと思いながら、来るまでに取りあえず顔だけでも洗っておこうと洗面所に向かう。
でも、平日の時間に千鶴がここにいるってことは、少なくとも夜の六時くらいにはなっているはず。
じゃあ意外とたくさん寝たのかな。
でも、全然体は楽になってないし、お腹は空いてるのにとても作る気力なんて湧かない。
「お邪魔するよー」と声がしながら、玄関のドアがガチャっと開けられる。
タオルで顔を押さえて「ほーい」と返事をしながら、なにかガタガタと重たそうなものを運ぶ音が聞こえて、首を傾げる。
「千鶴ー?なにやってんの?」
洗面所から出て、まだ玄関いる千鶴に声をかける。
「ちょ、なに、それ?どしたの?」
見れば何とも重そうなスーツケースを下げていて、もう片方の手にはエコバックに詰め込まれた野菜の頭がのぞいている。